2025年3月10日に創業100周年を迎えた中外製薬。その記念プロジェクトの一環として、社員の「想い」をカタチにし、未来への一歩を刻む『My Action宣言』が中外グループ全社で展開しています。『My Action宣言』とは、中外製薬の100年の歩みと社員の「ヒストリー」を重ね合わせ、これからの未来へのアクションを社員一人ひとりが宣言する取り組み。この取り組みがどのようにして生まれ、中外製薬の社員にどのような変化をもたらしているのか。プロジェクトを推進した中野陽介(中外製薬 経営企画部)と、中外製薬の想いをクリエイティブの力で形にした諏訪徹さん(株式会社 電通 クリエイティブディレクター)にお話を伺います。
100年の歩みと「私」のヒストリーを紡ぐ
My Action宣言では、社員一人ひとりの『ヒストリーブック(動画)』を皆で共有できるデジタルツールを展開しています。このツールでは、イタリアを拠点に活動するイラストレーターGiacomo Bagnaraさんがオリジナルで手掛けたイラストの中から、髪型や衣装など気に入ったパーツを選択し、自分だけのアバターを作成。次に、自分が生まれた年から現在までの歩みを入力すると、それが会社の歴史と重なり合い、一本の物語として『ヒストリーブック』が生成されます。「自分が生まれた年に、会社ではこんな出来事があったのか」といった発見を通じて、会社の歴史が「自分ごと」になっていく。そして最後に、その物語を踏まえ、未来への想いを『My Action宣言』として言葉にするのです。
 
                                                                                
この取り組みをなぜ創業100周年のタイミングで実施したのか。100周年記念プロジェクト全体の中で、どのような役割を担っているか。プロジェクトをリードしてきた中野は、コンセプトを説明します。
 「100周年企画の全体を通じて、まずは創業者や先人たちの挑戦や想いを『知る』。それを受けて、自分たちの想いを『カタチにする』。そして、101年目以降の『行動に移す』。この過去・現在・未来をつなぐ流れの、まさに要となる部分に『My Action宣言』を位置づけています。」
このコンセプトに、ユニークな着想で応えたのが、クリエイティブディレクターの諏訪さんです。
「中野さんたちと議論する中で、ふと結婚式で流れるプロフィールビデオを思い出しました。新郎新婦、二人の人生が交差する物語に、私たちは感動しますよね。会社と社員の関係もそれに近いのではないか、と。『企業』という存在と、一人の『個人』との出会いの物語を可視化できれば、会社の歴史をより身近に感じ、自分の存在意義を再認識できる。そこから、この物語をデジタルツールで生成する『ジェネレーター』という手法に行き着きました。」
遊び心のあるアバターという発想も、諏訪さんのこだわりです。 
                                                                                
「一人ひとり個性があるからこそ、会社は面白い。画一的ではない、その人らしさが表現できることが大切です。アバターのパーツ選び一つとっても個性が現れていて興味深いですよね。『My Action宣言』というキーワードも、中野さんたちとの会話の中で『パーパスだけでなく、その先の行動(アクション)が大事だ』という言葉がヒントになり、共に創り上げたものです」と、プロジェクトへの想いを語ります。
「想い」をデザインする。主体性を引き出すための仕掛け
『My Action宣言』の根底には、中外製薬が大切にする「主体性」を尊重する文化がありました。
 「宣言を作成するプロセスは、入社時の想いや仕事で実現したかったことなど、自分自身の『源泉』に触れる機会になります。その源泉に気づくことが、日々の業務やキャリアを考える上での主体性につながっていく。ちょうど新人事制度が始まり、キャリアを主体的に描くことを後押しするタイミングでもあり、この宣言が会社の大きな方向性と連動し、新人事制度浸透の後押しや主体性の輪を広げるきっかけになればと考えていました」と中野はその狙いを話します。
 一方で、中野は「想いをカタチにするのは難しいだろう」とも想定していました。しかし、その予想は良い意味で裏切られます。「思っていた以上に、すんなりとカタチにできる人が多いんです。きっと、普段から自分の中に秘めている『想い』があったんですね」と中野は語ります。
 諏訪さんも、クリエイターとしての視点から、中外製薬の「らしさ」を深く洞察していました。
 「中外製薬の皆さんは、真面目で、一つのことを粘り強くやり遂げる力がある。一方で、もっと自由に、自分のやりたいことを声に出したらさらに大きな力になるのではないか。だからこそ、このプロジェクトが、普段は心の内に秘めているかもしれない、それぞれの想いを解放するきっかけになってほしいと思っていました」
デジタルからリアルへ。部署や世代を超えて広がる「共感の輪」
デジタルツールとして展開したこのプロジェクトは、やがてリアルなコミュニケーションとして広がり始めます。3月に行われた「患者中心」をテーマにしたパネルディスカッションでは、社長の奥田やパネリストがその場で宣言を書き、想いを共有しました。社内ではMy Action宣言を仲間と集まって一緒に考えるワークショップを開催。参加者同士で対話をしながら未来への想いを語り合いました。
 
                                                                                
さらに、社員とその家族が参加する「Chugai Day」では、特設ブースを設けて、社員の家族に夢や目標を宣言ボードに書いてもらいました。自分の子供の「夢」を見て、普段とは違う一面に驚いている社員もいました。そして、組織によっては自主的に想いを共有し語り合う場づくりを行っている光景もありました。
 「デジタルで生まれたものが、リアルな場で手触りのあるものとして共有され、また新たなコミュニケーションを生む。素晴らしい循環ですよね。」と諏訪さんが手応えを語ると、中野も頷き、続けます。
「このプロジェクトの大きな目的は、個人の『想い』を“見える化”することでした。それがワークショップやイベントといったリアルな場で共有され、共感の輪が広がっているのを見て、まさに狙いが形になっていると実感しています。普段の業務では見えない上司や同僚のパーソナルな想いに触れることで、部署や世代を超えた一体感が生まれる。この繋がりこそが、次の100年を創る力になると確信しています」
「私の物語」が、会社の力になる
現在、My Action宣言は1,500人以上が登録している。中野は、数だけでは測れない価値があると言います。
 「もちろん、全員が想いをカタチにするのが理想ですが、カタチにできていない社員にも影響はあるはずです。自分の周りの誰かが書いた宣言を見て、少しでも刺激を受けたり、あの人はこんなことを考えていたんだ、と知るだけでも意味がある。そうした波及効果が大事だと思っています」
 
                                                                            
「正直なところ、会社が100周年といっても、社員一人ひとりにとっては、すぐには『自分ごと』として捉えにくいだろうと感じていました。だからこそ、いかにして会社と自分の『接点』を持たせるかが重要だと考えたんです」と、諏訪さんは振り返ります。
「自分のアバターが作られ、自分の想いが全社に見える形で存在する。それは、自分がこの会社にいていいんだ、という存在証明になります。その感覚は、会社への愛着や、チームの一員としての意識を高めてくれるはずです」
My Action宣言は中野自身にも変化をもたらしました。
 「私は『価値創出と共感によって、世界中で“CHUGAI ”と言われるような会社に』と宣言しました。会社の経営企画を担う社員として経営的な成果を出すことはもちろん大事ですが、それだけではダメで、人々の『共感』が得られなければ意味がない。成果と共感、その両方を生み出せる会社で働くことで、人も成長でき、ワクワクできるのではないか。そう言語化したことで、日々の業務で判断に迷ったとき、『そういえば自分にはこういう価値観があったな』と立ち返る軸ができました 」
 
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多くの社員の想いを集めたMy Action宣言。しかし、これはゴールではなく、新たなスタートラインです。「宣言された想いをきっかけに社員同士が影響を与え合い、主体性の輪が広がっていく。そして、一人ひとりの『やりたいこと』が会社の成長につながる。そんな状態を目指していきます」と力をこめます。
100周年という節目に、過去から未来へと「想いのバトン」をつなぐために生まれたMy Action宣言。社員一人ひとりの想いを原動力に、中外製薬の挑戦は続きます。
諏訪 徹
株式会社 電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター クリエーティブディレクター/コミュニケーションプランナー
電通入社後、ビジネスプロデュース職、マーケティング職を経て、クリエーティブ職に。
 2016〜17年は、スウェーデン・North Kingdom で働き、帰国後21年1月よりカスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センターに所属。
 商品&サービス開発からブランディングコミュニケーションまで幅広く対応し、
 「ひとつの領域にとどまらない強いコンセプト開発を!」をモットーに仕事をする。
 主な受賞歴に、Cannes Lions、D&AD、One Show、AD STARS、Spikes、ADFEST、NYADC、TOKYO ADC、ACCなど
 
                            中野 陽介
2006年に中外製薬へ入社し、MR(医薬情報担当者)として京都市内の医療機関を担当。その後、営業企画部署でエリア戦略推進や営業ITツールの導入などに従事。2019年より日本製薬工業協会の医薬産業政策研究所に出向し、産業政策の研究に携わる。2022年4月から現職で、成長戦略TOPⅠ2030の戦略浸透や組織文化変革施策を推進。2023年からは創業100周年企画にも参画。
 
                             
             
           
                  
                   
                       
                      