中外製薬SaMD開発チームが語る“共創”と“個別化医療”への挑戦

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中外製薬は、患者さん一人ひとりに最適な治療を届ける「個別化医療」の実現に向けて、医薬品のみならず、プログラム医療機器(SaMD:Software as a Medical Device)の開発にも挑戦しています。SaMDはAIなどのソフトウェア技術を活用し、診断や治療の精度向上を支援する医療機器です。特にAIによる画像解析を活用した診断支援は、従来の医薬品開発とは異なる知見とスピードが求められる分野です。
今回のnoteでは、中外製薬のPHC(Personalized Healthcare:個別化医療)ソリューションユニットのSaMD開発チームのキーパーソン3名が、テックスタートアップとの共創の中で得た学びや、異分野協業ならではの醍醐味について語ります。

※中外製薬公式note(https://note.chugai-pharm.co.jp/)より転載。記載内容・所属は2025年7月時点のものです。

対談者プロフィール

釘本 貴宣(トップ画像左)
大学では応用生理学分野の研究に従事。中外製薬では営業・メディカル部門を経て、新規事業領域でSaMD開発のプロジェクト全体をリード。特に画像解析であるイメージングアナリシス分野と医薬品事業との融合における戦略策定に強みを持つ。

 

田中 昌宣(トップ画像右)
大学で会計を学び、その後はシステム会社でシステム開発に従事。中外製薬では医薬品の承認取得に向けた電子申請業務、電子申請基盤整備を経て、現在はPHCソリューション開発部門でプロジェクトマネージャーとして、会議設定やプロジェクト全体の進行管理、ロジスティクス整備を中心に担当している。

 

小林 純美子(トップ画像中央)
薬剤師資格を持ち、医療機器メーカーでクラスIVの能動・非能動埋植医療機器を含む治験から上市等の薬事開発に長年従事。中外製薬ではSaMDや一部医薬品の薬事も担当し、医療機器分野での豊富な薬事経験を活かしてプロジェクトを支えている。

SaMD開発が切り拓く医療の新しい可能性

釘本 画像診断支援AIは、X線やCT、病理画像などの医用画像をAIで解析し、医師の診断をサポートするAIソフトウェアです。AIならではの、肉眼ではとらえにくい微細な変化の可視化や、膨大なデータに基づいた高度な予測技術などによって、医療の可能性が大きく広がっています。

中外製薬が強み*とするがん領域や、骨・関節、自己免疫疾患、腎、神経疾患、その他の領域などのスペシャリティ領域でも、医薬品とSaMDを組み合わせることで、患者さん一人ひとりに最適な治療を届けられると考えています。

 

*中外製薬の特徴と強みについて、詳しくは、中外製薬ってどんな会社を?をご覧ください。

 

田中 SaMD開発は、患者さんや医療従事者、社会全体に新たな価値をもたらす可能性があります。たとえば、AIが医師の診断をサポートすることで、より早期の疾患発見や、診断精度の向上が期待できます。

製薬企業にとっては、医薬品開発とは異なるスキルやマインドが必要で、社内外の協業体制構築も大きなチャレンジです。SaMD開発を通じて、社内の知見や組織力も進化しています。

 

小林 医用画像を読み取るSaMD開発は、X線やCT画像では日本国内でも活発に行われていますが、私たちが現在挑戦しているのは、日本でまだ前例のない「病理画像解析」を行うSaMDも含まれます。これが実現すれば、医療従事者や患者さんの負担軽減や、診断の質の標準化にもつながり、日本の医療に新たな道を切り拓くと感じています。

医薬品開発と異なるSaMD開発の特徴と課題

田中 まず、開発フローが大きく異なります。医薬品は基礎研究から非臨床試験、治験、国の承認申請まで、10年を超える長い年月と莫大な費用がかかります。
一方、SaMDはソフトウェアという特性を活かし、柔軟かつ短期間で繰り返し改善を行う「アジャイル開発」が可能です。例えば、数か月単位でプロトタイプを作成し、フィードバックを得ながら改良を重ねます。また、SaMDは承認後もアップデートが必要な場合があり、柔軟な開発体制と、医薬品開発とは異なるライフサイクルへのマインドチェンジが不可欠です。
AI技術の進歩のスピードは非常に速いため、従来の発想にとらわれず、常に最適なアプローチを模索しています。

 

小林 医薬品と医療機器では、規制や求められる要件も異なります。SaMDは形のない(無形の)ソフトウェア製品であるため、開発の自由度が高い一方で、ゴールが見えにくい難しさもあります。
たとえば、どこまでの機能を実装するか、どのような臨床的価値を証明するか、開発の初期段階から見極める必要があります。

 

釘本 そのため、プロジェクトの方向性を明確にする「開発の指針となるメインストーリー」を設定し、社内外のメンバー全員が同じゴールを目指せるようにしています。
メインストーリーとは、「このSaMDがいつ、誰に、どのように使われ、どのような価値を発揮するのか」を明確に示した開発の羅針盤です。困難に直面した時も、このストーリーに立ち返ることで、本質的な価値創造に集中できます。

薬事戦略がSaMD開発にもたらす価値

小林 SaMDのようなソフトウェア医療機器を日本で上市するには、まずその臨床的位置づけを明確にし、それを科学的に証明することが求められます。つまり、その製品が医療現場でどのように使われ、どんな役割を果たすのかを明確にし、その有用性や安全性をきちんと示さなければなりません。
この「科学的な証明」をどう実現するかが薬事の役割であり、技術的な評価など、どのようなデータを集めれば製品実現のピースになるのかを戦略的に考える必要があります。特にSaMDは製品ごとに最適な開発アプローチが異なり、経験に基づいた柔軟な戦略立案が求められます。
私の役割は、法規制の要件を満たしつつ、ビジネスとして成立する製品開発を支援することです。たとえば、どの程度の評価データが必要か、どのような使用目的であれば効率的に承認を得られるかなど、様々な選択肢を検討しています。

 

釘本 開発チームの中に薬事の専門家がいて、常に連携できる体制を整えることで、開発の初期段階から法規制の要件を考慮した設計が可能になります。これは非常に重要で、後から大きな修正が必要になるリスクを大幅に減らすことができます。また、規制当局とのコミュニケーションも円滑に進められることは大きな強みです。

 

田中 薬事戦略は、開発計画やリソース配分にも大きな影響を与えます。特に、医薬品とSaMDではビジネスモデルが大きく異なります。医薬品の場合は多額の投資をして長い開発期間を要し、大きなリターンを狙うモデルですが、SaMDは医薬品開発に比べて開発にかかる費用が少なく、より速いスピードで開発し、リターンの規模も異なります。この違いを踏まえた上で、どこまでの機能を実装するか、どのような臨床的価値を証明するかを開発の早い段階から見極めることが重要です。

テックスタートアップとの共創がもたらすイノベーション

釘本 テックスタートアップとの共創では、「開発領域への理解」「コアビジネスとの親和性」「担当者の情熱と人柄」といった点を、双方で大切にしています。
まず、開発領域への理解についてです。SaMDの適応となる疾患や診断・治療への理解、その疾患に用いられる医用画像の撮像手順や解析技術など、非常に専門的な知識が必要です。私たちが持つ医薬品や疾患に関する知見と、テックパートナーが持つ高度な技術力が融合することで、初めて革新的な製品が生まれると考えています。

また、パートナー企業のコアビジネスと私たちの開発テーマが合致することで、相互の戦略的意図と事業成長を尊重したWin-Winの共創体制が可能になると考えています。たとえば、X線やCT画像の解析をコアビジネスとしている企業と、病理画像の解析をコアビジネスとしている企業では、その分野における専門性や開発プロジェクトへの本気度が違いますし、それぞれの技術に対するプライドも高いと感じます。こうしたパートナー企業のコアビジネス・コア技術と我々の開発テーマに関する知識を融合させることで、互いの強みを活かした製品開発に取り組むことができています。

最後に、担当者の人柄や情熱も、共創において非常に重要だと感じています。新規事業では前例のない課題や困難に直面することが多く、時には心が折れそうになることもあります。たとえば、従来の枠組みにとらわれない新しい取り組みを進める際には、これまでの経験や成功事例が参考にならない場合があり、何を基準に判断すべきか迷う場面も少なくありません。特に、実現可能性やマネタイズを疑問視されることも多く、「できない理由」から先に考えてしまいがちになります。そうした困難に直面したとき、共に解決策を模索し、医療への貢献という共通の目標に向かって挑戦し続け、乗り越えていくためには、双方の情熱や信頼関係が不可欠であると考えています。

 

田中 スタートアップと製薬企業では、企業文化や価値観が異なります。スタートアップは意思決定が速く、リスクを恐れず新しいことに挑戦する姿勢が強い印象を持っています。一方で、製薬企業は品質やリスク管理を非常に重視し、慎重に物事を進める傾向があります。
このような異なる文化を持つ企業同士が一つの目標に向かって進むためには、まずお互いの事情や価値観を理解し合うことから始める必要があります。特に、意思決定のスピード感や優先順位の考え方には違いがあるため、双方の立場を尊重しながら、共通のゴールを明確に設定することが重要です。
私はプロジェクトマネージャーとして、社内外の垣根を越えて、全員が力を発揮できる場づくりを最も意識しています。お互いの専門性を尊重し合い、一つのチームとして課題解決に取り組むことで、イノベーションの創出につながると考えています。実際のプロジェクトでは、スピードと品質のバランスをどのように取るかが大きな課題となります。スタートアップ側のスピード感に合わせて意思決定を迅速化しつつ、必要な品質やリスク管理は絶対に妥協しない。この両立ができる環境を整えることが、私の役割だと考えています。

 

小林 特に医療機器開発においては法規制への対応が大きなハードルになることが多いです。スタートアップにとっては、各種規制への対応や試験の実施など、医療機器として製品化するためのプロセスについて負担を感じることもあるのではと思っています。
そこで私は、なぜその対応が必要なのか、どのように効率的に進められるのかを話し合いながら、必要な品質や安全性を確保できるよう取り組んでいます。特に日本の医療機器に関する法規制は、通知等からは規制要件が読み取ることが難しい場合や、ごく一般的なレベルでの内容しか書いていない場合があり、スタートアップにとっては分かりづらい部分もあります。規制要件の解釈や対応について、双方がスムーズに進められるよう協力しています。

法規制への対応を単なる「やらなければならない作業」としてではなく、共に価値ある製品を世に出すためのプロセスとして前向きに取り組む姿勢が、プロジェクトの成功には不可欠だと考えています。

共創から未来を拓く

田中 新しいことに挑戦する時、信頼関係の構築が何よりも大切だと学びました。ゴール設定が難しいからこそ、協業のベースは信頼です。お互いの強みを理解し合い、より良い製品を生み出していきたいです。

 

小林 大企業とスタートアップのパートナーシップから多くの学びがありました。お互いを尊重しながら仕事を進めることの重要性を実感しています。薬事の専門性が新しい医療価値の創造にどう貢献できるかを、今後も追求していきたいです。

 

釘本 私たちは開発初期段階から実用化に向けたプロジェクトまで、患者さんや医療従事者に革新的な価値をもたらすSaMDの可能性を追求しています。この共創から生まれる新たな価値を医療現場に届けるため、パートナー企業との信頼関係を大切にし、社内外の専門性を融合させ、情熱を持って挑戦し続けることをお約束します。

「未来の世代や子供たちのために、いま成すべきことを考える」が私の情熱を支える信念です。

 

中外製薬のPHCソリューションユニットでは、革新的なPHCソリューション提供で最適な医療をグローバルに実現することを目指しています。多様なバックグラウンドを持つメンバーが、情熱をもって異業種との協業に取り組み、新たな価値創造に挑戦しています。

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